***
「よかった、きてくれたのだね」
約束通りテニスコートへ行くと、拓馬はすでに藤色の試合用ユニフォームに着替えていた。
もしかしたら拓馬は、ユニフォームが紫だからこの学校を選んだのかもしれない。
「ああ、約束だからな」
約束だから。それに、罪悪感もあった。
おれは北村麗華と浮気なんかしていないし、これから先もずっとないだろう。
それなのに、「これがきっかけで拓馬と北村麗華が別れて、おれにチャンスがくるかも」という気持ちが少なからずあった。
「早速始めようか。麗華をかけて」
拓馬はラケットを強く握り、おれの胸に向けた。
その瞬間、拓馬が顔をしかめ、ラケットを落とした。
「どうかしたのか?」
「なんでもないよ。ちょっと汗で滑っただけなのさ」
「ああ、そうか」
返事をしながら、そんなわけがないだろうと思った。
だけど、問い詰めたところで、拓馬は「なんでもない」と言い張るだろう。
それに、これは拓馬が挑んできた勝負なんだ。
おれはそれから拓馬と真剣に試合をし、そして、その勝負に勝った。



