蝉時雨を追いかけて

 

***


「拓海、話があるのだけれど」


 貰った写真を机の上で眺めていると、拓馬がノックもせず部屋に入ってきた。

おれは慌てて写真を机の引き出しにしまう。


「ああ、なんだ?」


「拓海、今何か隠さなかった?」


「いや、なにも」


「それなら見せておくれよ」


 拓馬が強引におれの制止を振り払って引き出しを開け、写真を手に取り、それをじっと見つめた。


「これはどういうことだい?」


「見ての通りだよ」


「麗華が拓海と浮気をしているということかい?」


「だったらなにか?」


 おれは最低だ。弁解しようと思えばいくらでもできるのに、それを言わない。

勝手に勘違いしてればいいと思っている自分がいる。


「わかった。それなら、勝負をしないかい?」


「勝負?」


「そう、テニスで勝負をしよう。今度はシングルスだ。負けた方は二度と麗華に近づかないというルールで。明日の放課後、テニスコートへきておくれよ」


 拓馬は写真を机の上に置き、返事を聞かずに部屋から出ていった。

写真の中で北村麗華が、おれを睨み付けているような気がした。