蝉時雨を追いかけて

「そうなんですか? 拓海さんって、まるで納豆のような人なんですね」


 北村麗華までノッてきた。納豆のようなの意味はわからない。


「そりゃ納豆に失礼だべさ。こいつにあるのは臭いだけで、納豆ほど粘りがないべ」


「そうですよね。納豆さん、ゴメンなさい」


 茨木さんはおもむろに持っていた異臭を放つボストンバッグの口を開けた。

中にはびっしりと藁がつまっていた。おそらく藁の中には納豆が入っているのだろう。


「あれれ、ちょうどこんなところに納豆が! 麗華ちゃん、これに謝って」


「いや、もう謝ってたでしょ」


「ゴメンなさい」


「謝るのかよ」


「あれれ、こんなところにインスタントカメラが! 拓海ちゃん、せっかくだから麗華ちゃんの隣に座って」


 ボストンバックの藁の中には、なぜかインスタントカメラが入っていた。

おれは強引に北村麗華の隣へ座らされた。


「撮るよー。はい、チーズ」


「そこは納豆じゃないんだ」


「はい、記念にあげる。あと納豆も」


 おれは撮りたての写真と、藁を手渡された。写真は正直うれしいが、納豆だけは返却しようか真剣に悩んだ。