蝉時雨を追いかけて

「あれれ、こちらは彼女さん? 彼女さんは納豆好き?」


「いや、この子は拓馬の彼女なんだ」


「はじめまして。納豆大好き北村麗華です」


 北村麗華はさっきまでとはまるで違う明るいトーンで、不思議なキャッチフレーズ付きの自己紹介をした。


「あれれ、そりゃ気が合うべさ。納豆好きに悪いやつはいないって決まってるべ。あちしは茨木ゆかりってんだー。趣味は納豆さ」


 彼女は興奮すると方言が出る。だが、それがどこの方言なのかは誰も知らない。


「茨木さんも勉強?」


 茨木さんはおれのコーヒーをグイッと飲み干した。助かったから、勝手に飲んだことは許してあげよう。


「ん? 違うよ。暇だから、どうして納豆がメニューにないのかクレームつけにきただけなんだ」


 な、なんてたちの悪い客なんだろうか。


「あんたら、納豆も食べないで、ちゃんと勉強出来てるの?」


「いや、まだなにもやってないけど」


「しかたない男ねえ。だからあちしにもフラれるのよ。納豆のようにね」


 なぜフラれたことをここで言うんだろうか。納豆のようにの意味もわからない。