蝉時雨を追いかけて

 おかっぱが二階の部屋から降りてきた。

これでおかっぱとふたりきりだったという事実が北村麗華に知られてしまった。一生の汚点だ。


「今部長、出かけてるみたいなのよ。自分から誘ったのに、ひどい男よね」


 ひどい男はおまえだろ、と思わず叫びそうになった。


「せっかくだから、拓海と勉強したらどう?」


 おかっぱがまたしても信じられないことを言い出した。

そうか、おかっぱの目的はこれだったのか。


「拓海さんと?」


「そう。この子、意外と頭がイイのよ。ファミレスでも行ってきたらどう? ここに拓海の勉強セットもあるし」


 おかっぱはさっきまで部屋にあったはずの勉強道具をすべて持ってきていた。


「でも……」


「大丈夫よ、部長にはオレが言っておくから。ホラ、いってらっしゃいな」


 おかっぱに背中をグイグイ押され、おれは我が家を追い出された。はだしのまま。

文句を言おうと振り向くと、おれの靴がすごい勢いで飛んできた。

必死にキャッチ。よし、ナイスおれ……って言ってる場合じゃないんだった。

玄関の鍵が閉まる音がした。そこ、おれの家なんだが。