蝉時雨を追いかけて

 

***


 扉を開けると、そこには本当に北村麗華がいた。

いつもと違う私服姿は新鮮で、いつも以上に輝いて見える。


「あ、拓海さん、こんにちは。拓馬くん、いますか?」


「いや、いま出かけてるみたいだけど」


「そうですか。一緒に勉強しようって言われたんですけど」


 北村麗華が唇を突き出して、不満を現した。普段は大人びた彼女がふと見せた子供っぽいしぐさ。

それがまた魅力的で、おれは思わず目をそらした。

どうしておれは、こんなにも緊張しているのだろう。


「そ、それは、拓馬に言われた?」


「いえ、岡田さんに聞きました」


「ああ、おかっぱか」


 なるほど、おかっぱは北村麗華をだましたのか。だから家にくることも知っていた。

だが、なんのためにそんなことを?


「アラ、マネージャーじゃない」