蝉時雨を追いかけて

 

***


「拓海、入るよ」


 拓馬がノックをして、おれの部屋に入ってきた。

めずらしく、むらさき色のTシャツに、むらさき色のジーパン(?)という普通の服装だ。


「ああ、なにか用か?」


 拓馬は勝手におれのベッドへダイブし、枕に顔をこすりつけた後、ベッドの上に座りなおした。

……新手の嫌がらせだろうか。


「さっきさ、先生にライバル宣言されたよ。拓海は絶対おまえに勝つんだっ! ってさ」


「ああ、そうか。拓馬もゲジと話すことがあるんだな」


「そりゃそうさ。部長が顧問と話をするのは当然のことだろう? ところで拓海、そろそろ家を出る時間ではないのか?」


 時計を見ると、夜の九時だった。たしかに、いつも家を出る時間だ。だが。


「なんで知ってるんだ?」


「中学くらいのときから、毎日9時になると走っていたのだろう? 知っていたよ。僕に勝つためなのかな。ということは、今は岡田と練習でもしているというところだろうか」