蝉時雨を追いかけて

「いいか、田端に荻窪。おれたちは拓馬に勝つためにダブルスをはじめたんだ。おまえらなんかには負けない」


「口ではなんとでも言えるんすよね。実力で証明してくださいよ、先輩。はっはー、行こうぜ、荻窪」


「…………………………うん」


 田端と荻窪は部室へ戻っていった。ベンチを見ると、いつのまにかゲジも消えていた。


「拓海、あいつら絶対泣かせるわよ」


 おかっぱが怒りのせいか体を震えさせていて、そのたびに頭から胞子が降って来た。


「ああ、そうだな。ところでおかっぱ、おまえ最後に風呂入ったのはいつだ?」


「そうねえ、自己紹介の前日だったかしら」


 自己紹介やったの、一月近く前なんだが。それで日に日にふけと臭いが大変なことになってたのか。


「今日夜の練習前、かならず風呂入ってからこいよ」


「練習前に入っても、すぐに汗かいちゃうじゃないのよ」


「いいから入れ! そして練習終わったあとも入れ!」


「なによ、怖いわねえ。そんなんだから彼女ができないのよ」


「なんだと?」


「冗談よ」


 普段は冗談みたいな顔をしたおかっぱが、驚くほど無表情だった。