蝉時雨を追いかけて



***


 テニス部の練習は、学校の外周を5周することから始まる。

1周約1キロのコースで、急な坂もある。

体力がないときついため、部の方針としてペースは個人に任されていた。

かけ声をあげながら、みんなで走るというわけではないのだ。


 おれはおかっぱと一緒に、だらだらと最後尾を走っていた。

おかっぱというのは、岡田新平(オカダ シンペイ)のあだ名だ。

髪型がおかっぱなので、そのままそれがあだ名になった。

彼いわく、「ブサイクな男は髪型を変えてでも、ウケに走るしかないのよ」らしい。


「オイ、拓海」


 おかっぱがひそひそ声で話しかけてきた。

ひそひそ声なのは、目の前に1年生の女子が走っているからなのだろう。

最上級生がおしゃべりしてるんじゃ、示しがつかないし。


「あの新人マネージャー、北村麗華だっけ? かわいかったわねェ。ブサイクだらけのこ
の部にも、ようやく光が差したわ」


「ブサイクって、おまえがいうなよ。おかっぱほどのブサイクはいないだろ」