蝉時雨を追いかけて

「でも先生、ダブルスが嫌いなんじゃ」


「ダブルスが嫌いなんてっ、一度も言ってないっ! シングルスだろうがダブルスだろうがっ、勝てる可能性の高い方に力を入れるだけだっ!」


 結局うわさはデマだったということか。誰だ、ゲジはダブルスが嫌いなんて言ったやつは。

ゲジは毛抜きを出したのとは反対側のポケットから手鏡を取り出して、まゆ毛の様子を観察した。


「私はっ、拓馬よりもおまえらの味方だっ!」


「ありがとうございます」


 おかっぱとハモった。なんかくやしいし、気持ち悪い。


「だから今日からっ、ダブルス専門職としてっ、二組を鍛え始めるっ!」


「ちょっとゲジ、オレたちだけじゃないのォ?」


 おかっぱが「二組」という言葉にすばやく反応した。

それより、本人の前でゲジと呼ぶのはありなのか?


「もう一組いるっ! おっ! ちょうどきたっ!」