蝉時雨を追いかけて



***


 ゲジはテニスコートにあるベンチで、足を組んで座っていた。

上はワイシャツ、下はジャージという謎のスタイルだ。

あいかわらず濃いゲジゲジまゆ毛を、やさしくなでている。

普段は切れ長の目が、不自然なくらいにとろーんとしているので、このまゆ毛を気に入っているのかもしれない。


「遅いっ!」


 突然ゲジがまゆ毛いじりをやめて叫んだ。

ゲジはどうしようもないくらい声がでかい。

つねに叫んでいるような声のでかさで、ひそひそ声が一キロ先まで聞こえてしまうほどだ。


「すいません」


 迫力に押されて思わず謝ってしまったけど、よくよく考えると、まだ8時2分前だった。


「今日はっ、おまえらに大切な話があってっ、呼び出したんだっ!」