蝉時雨を追いかけて

 拓馬が突然立ち上がって、おもむろにバスローブを脱いだ。

もも引きだけではなく、むらさき色の腹巻もあらわになった。

寒いならなぜ脱ぐ? そして、むらさきがそんなに好きなのか?


「そんなことよりさ、拓海。前から言おうと思っていたのだけど、真面目にテニスやるつもりある?」


「なんだよ急に」


「拓海がやる気あるようには見えないからさ。僕たちが付き合い始めたからやる気をなくしたというわけではないだろう?」


 おれは動揺を見せないように努力した。

たしかに元々あまりやる気はなかったが、今回の件でさらにやる気をなくしたのもたしかだ。


「やる気があろうとなかろうと、拓馬には関係ないだろ」


「関係あるさ。拓海だって、今自分が置かれている状況、わかっているだろう?」


「ああ、まあな」


 拓馬は、おれがレギュラーにはほど遠い位置にいることをいっているのだ。

大会にはシングルスで四人、ダブルスは二組出場することができるが、おれはシングルスの実力で二桁くらいの順位にいる。

つまり、現時点で大会に出場できる可能性は皆無だ。