蝉時雨を追いかけて

 おれは拓馬の学習いすに座り、向かい合った。


「北村麗華と付き合いはじめたって本当か?」


 拓馬は一瞬目を見開くと、照れ笑いを浮かべた。


「おかしいな、まだ誰にも言っていないのだけど」


「いつから付き合ってたんだ?」


「ついさっき。帰り際に告白されたのさ」


 あまりのショックに、思わず失禁してしまいそうになった。北村麗華から、拓馬に告白した。

つまり、北村麗華はやっぱり最初から拓馬のことが好きで、おれには付き合える可能性なんてなかったのだ。

おれは抑えきれない感情を拓馬にぶつけた。


「おまえさ、おまえらが付き合うことが他の部員に与える影響わかってる? やる気をなくすやつもでてくるかもしれないだろ」


「わかっているよ。だから誰にも言うつもりはなかったのさ」


 堂々と言ってのけるところが憎らしい。

自分たちが美男美女カップルだということが、はっきりとわかっているのだ。

もしもおれが拓馬の立場だったとしたら、きっと「関係ねえよ」と一蹴しただろう。

拓馬は部員に与える影響をわかっていて、それでも北村麗華と付き合うことを選んだんだ。