蝉時雨を追いかけて



***


 ノックした2秒後、拓馬が勢いよく扉を開けた。

シャワーを浴びたばかりなのか、髪が濡れていて、むらさき色のバスローブを羽織っている。


「どうしたの、拓海。めずらしいな。まあ、入ってよ」


 拓馬の部屋のテレビには、先日行われたテニスの大会の映像が映し出されていた。

録画しておいたものをいま見ていたのだろう。


「帰ってからもテニスのお勉強か? 天才なんだから、そんなこと必要ないだろ」


「努力をしなくても勝てる人がいるとすれば、それは天才かもしれないけど、僕はそうじゃないよ。相手よりも多くの努力をしてはじめて勝つことが出来るのさ」


 拓馬はベッドの上にどかっと座った。

その勢いでバスローブが少しはだけて、むらさき色のもも引きのようなものが見えた。

バスローブは普通、素肌の上に着るものなんだが。


「セリフはかっこいいんだけどねえ」


「それで、なにか用?」


「ああ、拓馬に聞きたいことがあるんだ」