蝉時雨を追いかけて

 

***


 拓馬が死んでから、北村麗華は毎日拓馬の部屋を訪れていた。

遺影の前で、ただずっと、正座している。


「北村さん」


 おれが部屋に入っても、声をかけても、彼女は振り向かない。

おれには、小さな背中が見えている。

夕方になっていた。西日が入るこの部屋は、夕方になるとかなり眩しい。

北村麗華は身じろぎもせず、オレンジ色の光で背中を染めている。


「拓馬くん、死んじゃったんですよね」


 北村麗華が、突然、ぽつりとつぶやく。


「ああ、そうだな」


「人はいつか死ぬって、わかってるはずなのに、どうしてこんなに悲しいのかな」


「……北村さん、これ、拓馬からだ」


 おれは、北村麗華に宛てられた拓馬からの封筒を渡した。

彼女の分も読んだから、中身は憶えている。