蝉時雨を追いかけて

 拓馬の言葉が、痛かった。

なんで分かり合えなかったんだろう。

おれは拓馬に憧れ、拓馬はおれに憧れていたんだ。

お互い、同じ人を好きになって、同じ人を守ろうとして。

ずっと同じ環境で生きてきたのに、拓馬の気持ちなんて、なにも知らなかった。

いや、おれが知ろうとしなかっただけなのかもしれない。

拓馬の怪我には薄々気付いていた。タバコを吸っていたのも知っていた。

だがおれは、なにもしなかった。拓馬に勝ちたいと、そればかり考えていた。


 どんなに後悔しても、過去を取り戻すことはできない。

わかっていても、「かもしれない」が溢れてきた。

拓馬におれの気持ちを話していたら。

つらいとき、拓馬の側にいてあげたら。

拓馬と、兄弟じゃなかったら。


 蝉時雨。

おれは拓馬のことを追いかけて、追いかけて、そしてもう二度と、追いつけなくなった。