蝉時雨を追いかけて



***


 天井の壁紙に、北村麗華が映っていた。

おれは慌てて首を左右に振り、ベッドの上で上半身を起こす。


 自己紹介の日から一週間が経っていた。

この一週間、気付くとおれは北村麗華のことを考えている。

北村麗華の顔を思い浮かべるだけで、幸せな気持ちになれた。

だがおれは、まだ北村麗華と一言も会話ができていなかった。

何度か話しかけようとしたことはあった。

ところがそのたびに彼女は拓馬と話をしていて、勇気のないおれにはそこに入り込むことなどできなかったのだ。


 目の前にある扉を開ければ、廊下を挟んだ向かい側に拓馬の部屋がある。

あいつも、北村麗華のことを考えているのだろうか。