蝉時雨を追いかけて

 

***


 ようやく5周を走り終え、おれたちはテニスコートに戻った。

おかっぱの髪の先からは蛇口を捻ったように、汗がだらだらと流れていた。


「おかっぱ。こんな涼しいのに、汗かきすぎだろ」


「5キロも走ったんだから、これが普通よ。なんで拓海はそんな余裕なのよ」


「あれだけゆっくり走ったからな」


 他の部員は全員すでに走り終えていた。

コートの端に座って休んでいる人もいれば、すでにラケットを使って練習を始めている人もいる。


「オイ、拓海」


 おかっぱに声をかけられて、その視線の先を見た。

コート内に置いてあるベンチに座って、拓馬と北村麗華が楽しげに話をしていた。


「手遅れだったかもしれないわね」


 その通りだな、と思った。ふたりが付き合い始めるのは、もう時間の問題のような気がした。