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おれは拓馬の部屋の扉を叩いた。
「拓馬、聞こえるか?」
やはり返事はない。北村麗華はおれの横で、じっと扉を見つめている。
隙間から明かりがこぼれる気配はない。
「北村さんがわざわざおまえに会いにきてくれたぞ」
中でかすかに物音がした、ような気がした。おれはさらに続けた。
「一度ちゃんと話をしろよ。それでその後どうするかは、そのとき考えればいい」
「拓馬くん、部屋に入れて? お願い」
北村麗華のお願いという声のトーンがあまりにも切なくて、おれはすこし泣きそうになった。
そのとき、扉が開いた。暗い部屋から、拓馬の姿が現れる。
「拓馬……」
「わかったよ。麗華、入っておくれ」
北村麗華は一瞬戸惑いの表情を見せる。
「いいの?」
拓馬がうなずいて、彼女は部屋に入っていった。
「おれは自分の部屋に戻るよ。思う存分話をしてくれ」
これがおれの選んだ道なんだ。これで結果がどうなっても、後悔はしない。
結果なんて気にする必要はない。
拓馬と北村麗華が付き合っていようがいまいが、おれは北村麗華のことが好き。
それは変わらない。そして、それがすべてなんだ。