蝉時雨を追いかけて

「拓馬には勝てないよ」


 つぶやいたおれの肩を、おかっぱは慰めるように叩いた。


「部長がすごいのはわかってるわよ。あんたの気持ちもわかる。だけどさ、あきらめたら終わりなのよ」


 おかっぱは転がっていた石を蹴飛ばした。その石は転がって、どぶに落ちた。


「結局さ、今をがんばって生きるしかないのよ。人と比べて負けてるからって、人生をやり直すわけにはいかないでしょ?」


 おかっぱの顔が、いつも以上に歪んでいた。

おかっぱもいままで顔のせいで苦労してきたに違いない。きっと、おれ以上に。


「拓海はさ、たしかに部長と比べたら劣るかもしれないけど、顔だって平均よりは上じゃない」


「なんだよ気持ち悪いな、顔が」


「オイ! せっかくオレがなぐさめてやったのに、なによその態度は!」


「はは、ごめんごめん」


「たしか部長、今は彼女いなかったわよね? 部長が出てきたら、オレですら勝ち目がないわよ」


「おかっぱには最初っから勝ち目なんかないよ」


 笑いながら、走った。今を頑張って生きるしかない。それはその通りだと思った。