蝉時雨を追いかけて

「拓馬くん、まだ部屋にこもったままなんですか?」


 やはり北村麗華は、拓馬の話になるとしっかり食いついてくる。


「ああ。出てくる気はないみたいだな」


「会いに行っちゃ、ダメですか?」


「拓馬に?」


「はい。拓馬くんと、ちゃんと話をしたいんです。たとえそれでフラれても、直接言われたなら納得できます」


 もしも、ふたりが話をしたらどうなるのだろうか。

拓馬はおれに負けたことを理由に、北村麗華と別れるのか。

それとも、約束なんか無視してまたやり直すのか。


「今でも拓馬のことが好きなんだな」


「もちろんです」


 なんの迷いもなく、一瞬で答えが返ってきた。おれの中で、悪いおれが目を覚ます。