***
「拓海さん」と呼び止められたのは、部活が終わって家に向かっている途中だった。
振り向くと、後ろに北村麗華が立っていた。
「北村さん! どうかしたのか?」
北村麗華は走っておれを追いかけてきたのか、すこし息が乱れていた。
おれのパーソナルスペースに入る直前のところで、彼女は立ち止まった。
「あの、話したいことがあるんです」
「話したいこと?」
「はい。だから、あの、拓海さんの部屋に入れてもらえませんか?」
驚きすぎて、夕日に向かってダッシュしそうになった。
だけど、夕日がすでに沈んでいたので、走り出さずにすんだ。
「あ、ああ、もちろんいいよ」
どんな話なのかはわからないが、こんなチャンスはおそらく二度とない。
勇気のないおれに、わざわざ向こうが話しかけてきてくれたのだ。



