蝉時雨を追いかけて

 

***


「拓海さん」と呼び止められたのは、部活が終わって家に向かっている途中だった。

振り向くと、後ろに北村麗華が立っていた。


「北村さん! どうかしたのか?」


 北村麗華は走っておれを追いかけてきたのか、すこし息が乱れていた。

おれのパーソナルスペースに入る直前のところで、彼女は立ち止まった。


「あの、話したいことがあるんです」


「話したいこと?」


「はい。だから、あの、拓海さんの部屋に入れてもらえませんか?」


 驚きすぎて、夕日に向かってダッシュしそうになった。

だけど、夕日がすでに沈んでいたので、走り出さずにすんだ。


「あ、ああ、もちろんいいよ」


 どんな話なのかはわからないが、こんなチャンスはおそらく二度とない。

勇気のないおれに、わざわざ向こうが話しかけてきてくれたのだ。