教室のドアは有り難いことに開いていた。

体勢を低くし後ろから入って、自分のロッカーに手を伸ばす。

弁当箱を手探りで見つけると、水筒も取り出した。


「神谷ー」

あたしが立ち上がると、黒板のほうから高い声が聞こえてきた。

一つの席に対して、たくさんの男子が群がっている。


「いい加減顔上げてよ」

一人の背の低い男子が、席に座ってる図体のでかい男子の顔を両手で持ち上げる。

端から見たら、可哀相な光景かもしれない。

でも座ってる男子、神谷はこのクラスになってからずっと机に突っ伏している。

不思議に思う人は少なくなかった。


「なんでそんな下向いてんの? 眠いわけ?」

「物見えてんのか?」

神谷はまた下を向く。

集まっていた男子は全員で困り果てた顔をした。


――もういいや。
とっとと出よ。


あたしは弁当を抱えて、廊下に出た。

違う教室では、昔よく遊んだ子達が仲睦まじく机を並べている。

別に羨ましくなんかない。

ただ――



なんとなく、今の現状が怖いだけだ。