36.8℃の微熱。

 
そうしてにこやかにお姉サマと別れたあたしは急いで店へ戻った。

心配してくれているだろうユカ様への報告と、王子に一言“ありがとう”と言うために。


先生にもお礼を言わなきゃと思ったんだけど、一通り辺りを探しても近くには姿がなくて。

諦めて店に戻ることにした。


「ただいま戻りましたー」

「あ、茜ちゃん!大丈夫だった? 嫌なこと言われなかった?」

「うん、大丈夫!」


店に入ると、息つく暇もなくユカ様が飛んできてくれて、あたしのことを心配してくれた。

王子は厨房のほうから顔だけをのぞかせて、あたしの「大丈夫!」を聞くとすぐに仕事に戻った。


「あっ・・・・」

「・・・・」


お礼を言うタイミングが・・・・。

話しかけようにも、それを拒んでいるような空気が王子から発せられていて、一歩踏み込めない。


あたしがお昼まで寝てしまったせいで、実は今日は、王子とはまだ一言も話せていない。

それに昨日のこともあるし・・・・。

王子もあたしも、お互いに一言目にかける言葉が出てこないのだ。