「塾の申込書?」
二つ折りにしたそれを開いたお母さんは、目を丸くして驚いた。
お兄ちゃんも同じ顔。
隣のあたしを見て、マジかよ? という視線を送ってくる。
「うん。高校生になったら勉強も難しくなるでしょ? あたし、授業だけじゃ勉強追いつかないと思うんだ。特に数学は」
電車の中や帰り道で必死に考えた台詞、その1。
“数学は”のところをそれとなく強調して、申込書に目を落としたままのお母さんの顔色を窺う。
あたしの数学のダメダメっぷりは家族の中では周知のこと。
高校受験は、それがきっかけで塾に入れられたようなものだった。
「どう思う? 薫」
「どうって何が?」
薫(カオル)とはお兄ちゃんの名前。
お母さんの聞いた意味がよく分からないらしいお兄ちゃんは、少し面倒そうに聞き返した。
「だって茜が・・・・。あんなに嫌いだった数学を自ら克服しようとしているなんて!お、お父さんっ」
チーン!
仏間の鐘が鳴る。
お母さん、どうやら感激しちゃったみたいだよ。


