36.8℃の微熱。

 
「塾の申込書?」


二つ折りにしたそれを開いたお母さんは、目を丸くして驚いた。

お兄ちゃんも同じ顔。

隣のあたしを見て、マジかよ? という視線を送ってくる。


「うん。高校生になったら勉強も難しくなるでしょ? あたし、授業だけじゃ勉強追いつかないと思うんだ。特に数学は」


電車の中や帰り道で必死に考えた台詞、その1。

“数学は”のところをそれとなく強調して、申込書に目を落としたままのお母さんの顔色を窺う。

あたしの数学のダメダメっぷりは家族の中では周知のこと。

高校受験は、それがきっかけで塾に入れられたようなものだった。


「どう思う? 薫」

「どうって何が?」


薫(カオル)とはお兄ちゃんの名前。

お母さんの聞いた意味がよく分からないらしいお兄ちゃんは、少し面倒そうに聞き返した。


「だって茜が・・・・。あんなに嫌いだった数学を自ら克服しようとしているなんて!お、お父さんっ」





チーン!

仏間の鐘が鳴る。

お母さん、どうやら感激しちゃったみたいだよ。