こういう人を好きになれたらきっと幸せなんだろうな、なんて。

あたしも急いで笑顔を作って“分かったよ”と頷きながら、そんなことをふと考える。

けれど、それと同時に胸の奥がチクッと痛んだりもする。


王子は先生のことを悪者みたいに言っていたけど、根っからの悪者だったらあたしは塾に入っていなかったと思う。

ひどい交換条件を突き付けられたり、毎回居残りさせられたり。

嫌だなって思うことはあっても、本気で塾をやめようと思ったことなんてなかった。

たまに優しいし、ちょっと子どもっぽいところもあるし、ラーメンをごちそうしてもらったことも。


だから、庇う・・・・じゃないけど、先生が傷ついていないか心配で、申し訳なく思う。

そういう面を王子が知らないのは当然のことなんだけど。

今日は塾サボっちゃったけど。


「フゥッ・・・・!」


肩で一つ大きく息をすると、あたしは玄関の扉を勢いよく開けた。

ごちゃごちゃ考えるのはあとだ。


「お母さん、ただいまー。頼まれた牛乳、買ってきたよー」