水曜日、美佳さんは啓太の言った通り
舞台が決まった事を公表した。


あたし達は、『曾根崎心中』を演じる事になった。



「役柄は、また明後日公表します。
今日はいつも通りの練習をしてください」



美佳さんが喋る隣で、啓太はギターの弦を爪で弾きながら
椅子の背もたれに寄っ掛かって
膨れっ面をしている。



「今田、あたし達は曾根崎心中の
演奏曲の打ち合わせに入ろう」



そう美佳さんに促されて
聞こえるか聞こえないかくらいの声で
"はい"と返事をして啓太は美佳さんの後ろについてスタジオを出て行った。



「曾根崎心中とか初めてだよね。」



望美がキラキラした瞳であたしを見つめて笑っている。



「主役は、ネコでしょ。
もしくは、あたしが男役でネコが女役」


腰のアップをしながら返事をした。





曾根崎心中なら、お母さんも演じたんやよな






そうやって考えると、今回ばかりはお母さんが演じた役を…





『あたしも演じたい』






心からそう思った。






「早く練習始めよ。
時間ないんやから」




きっと、その時のあたしは…刺々しかっただろう。