「そうやったんや…そんな小さいときの事、覚えてないし何か新鮮やね」



そう言うとお母さんはニコリと笑った。



そして、それ以上は話してくれなかった。




明後日の昼間までに、お母さんは話してくれるのか…今までの事を。何で、突然スペインへ行く事になったのか。話してくれなかったら、どうしよう…そんな一抹の不安に駆られた。



「お母さん」

「ん??」

「明日の夜…全部教えてね」



気付いたら、言うつもりの無かった事を口走っていた。



「うん、ちゃんと話すよ」



案外お母さんはスラッと了解した。だけどその横顔は険しくて、怪しい匂いを放っていた。





家に帰り、お母さんが夕飯の支度をしている間、秀一叔父さんに生まれて初めて国際電話なるものをした。


長いコール音のあと、電話に出たのは静香叔母さんだった。


「もしもし叔母さん??多嘉穂やけど」

『はいはい、たぁちゃん??何どうしたの』

「あ、明後日こっち出るからさ。」

『…会えたの???千秋姉ちゃん』

「うん、今お母さんの家。」

『姉ちゃん元気そう???』

「元気やで…フラメンコのプロになって、何か凄い活躍っぷり」