好きだなんて言えない。


手が届きそうなくらい近くにある空を眺めてひとりため息をつく。



「ばっかみたい。」


悩んだって答えが出るわけないのに。


「俺が?」


「…へ?」


不意に現れた声の存在に驚いてあたしは声をあげた。


「ひどいなー伊織は。」


「はあ?何か用なの、瑛太。」


本当は嬉しいくせに。

素直になれない自分なんか嫌いだ。


「いや、用はないけど。
俺に言ってんのかと思って。」


瑛太はふざけたように笑った。


「言ってないよ。
てかいつからいたの?」


「お前が来る前から?」

…最悪な事態だ。


「ね、好きな人って誰?」

あたしはさっきの一言だけでなく、いくつか。
独り言を言った。



「さあ?」

告白のチャンス?なんて言葉が一瞬頭をよぎったけれど、すぐに消えてしまった。


「気になるんだけど。」


「無理です〜。」

あたしは気づかれないように明るく振る舞った。



「…俺は言えるよ?
すっげー惚れてるもん。」

「は?」


今日は、驚くことが多い気がする。


…あたし、今。
うまく笑えてるかな?


「…誰?」


「聞きたい?」


聞きたくない、けど。

「聞きたいよ。」


どこかで手を繋いでる姿を見るより、

今ここで本人の口から聞く方が諦めがつく。



「……佐野伊織。」


「え?」


「だーから、伊織が好きだっていってんじゃん。」

少しだけ照れながら笑うその顔が冗談ではないことを証明してくれる。

…嘘、だ。


「…あ、たし…?」


「何回言ったらわかんの?」


「…わかんない。」

…夢じゃない。
嘘でもない。

…真実?


「付き合ってくれる…?」
瑛太はさっきより何倍も真面目な顔で聞いてきた。


…答えなんてもちろん決まってる。


「はい。喜んで!」



独り言

(俺実は初めっから知ってたんだよね。)
(何を?)
(…独り言よーく思い出せば?)