本当は離したくなかったよ、君の手を…






ちょうど一時間前、あたしは一年と少し付き合った人にふられた。


新しい好きな人ができてしまった、と。



あたしは至って冷静だった。


というよりも何を言われているのかわからなくて呆然としてた。


一粒、涙が落ちた気がした。




そんなあたしに気付いたのか謝り続ける彼。


あたしはそれを見て、やっと自分が置かれている状況に気付いた。



それと同時に涙が溢れて制服に跡を残していく。



離れて行かないで…―


そう心の中で叫びながらあたしは泣き続けた。


でも…

見上げるとそこにはひどく傷ついた顔の彼がいて自分が悪いことをしている気分になった。


[ずるいよ―…]

自分からふっておきながら、そんな顔しないでよ…


消え入りそうな声で呟いたのに、その言葉は彼に届いたみたいで、[ごめん。]と彼はまた呟いた。


やっぱり、あたしが悪いことをしている気分だ。


そんな自分が嫌になって泣くのをやめて、精一杯の笑顔で[…グスッ…帰ろっか…。]と言った。


彼の手をそっと握って。


これで最後。


最後にもう一度、大好きだった君の温もりを―…。





あたしの家近くまで来て


「じゃあ、」

と言いかけて手を離そうとする彼を制して、

「ねぇっ!」

と繋いでいた手をぎゅっと握り締めて、上を見上げた。


最後だなんて信じられないよ―…



「何?」


「本当に…

終わりなの?」


あたしの今にも泣き出しそうな顔を見て、戸惑った顔をしながらも、


「うん。
ごめん…な?」



そう言って、あたしの家の前で君の手はあたしから離れていった…。




〜君の手〜

(君の手の温もりはいつまでも残しておきたかったよ…。)