いとしのかずん

「あ! これ、ラケット入ってんの?」

敦美は、部屋の隅に置いてある俺のラケットバッグを見つけたようだ。

「ああ、うん」

俺が、そう言うやいなや

「ちょっと見せて?」

と、人の了解も取らず勝手にラケバを引きよせる。そしてジジジ、とファスナーを開いて、中のラケットを手に持つと、頭上にかざした。

「えい! えい!」


慣れないジェスチャーで振り回している敦美。

素振りと言うより、むしろハエ叩きでハエでも撃ち落とそうとしているかのようで、一つ間違えば、机の角にでもぶつけそうな勢いである。思わず立ち上がり、慌てて両手を前に突き出した。