「約束は明日だろ。一番綺麗な麻里の姿で待ってな…さ…い」
お父さんが眼鏡を外しナプキンで目頭を押さえた。
どんなに忙しくても誕生日やイベントには必ず一緒に祝ってくれた家族思いのお父さん。
あたしの我が儘や悩みを優しく手を差し延べてくれたお母さん。
あたしはこの両親の娘でいれた事に心から感謝した。
生き別れになった弟の子供であるのあたしを本当の子供みたいに大切に育ててくれた。
たった十年という短い時間だったけどこの家に沢山の幸せを貰った。
家族の愛情は最後まで優しく温かかった。
今までの思い出が走馬灯のように甦る―。
お母さんとガーデニングしたり、ジャガ芋の皮を剥いたり…
お父さんに数学教えて貰ったり…
この十年間、ちゃんと”家族”になっていた。
あたしは何一つ親孝行していないのに――…。
初めて両親に見せた涙は止まる事を知らず次々と溢れてきて言葉すら出てこなかった。


