「麻里、こんな夜中に何処に行くんだ!またあの男の所に行くのか?」
「うるせぇな!お兄ちゃんには関係ないでしょ!」
夜中に施設を抜け出す準備をしていると、寝ていたはずのお兄ちゃんが険しい顔であたしの腕を掴んだ。
「離してよ!翔太が待ってるんだから!」
「あいつだけは止めとけ!あいつは麻里以外にも女がいる!俺は見たんだよ!女とジャレてる現場をな!問い詰めようとしたけど俺の顔見て逃げやがった!麻里、目を覚ませ!」
「でたらめ言わないでよ!お兄ちゃんだって毎晩遅く帰ってきて、どうせあの女とヤッてるんでしょ!」
バシッ――…
静まり返った暗い部屋に鈍い音が響いた。
「痛っ…、何すんのよ!」
初めてお兄ちゃんにビンタされ一瞬目が覚めたような気がした。
お兄ちゃんは叩いた方の手を呆然と見ながら震えていた。
「麻里はいつからそんな人間になったんだ、死んだ父さんと母さんが見たら悲しむぞ。お兄ちゃんも悲しいよ。あと…綾香とは別れたから安心しろ」
「え………?」
一瞬、別れたという言葉に反応したが、叩かれた手前もう後には引けなかった。
「お兄ちゃんなんか最低!大嫌い!!」
「麻里!!!!」
兄の手を振り払いあたしは暗い夜道へと走った。
時折、吹いてくる夜風が涙と一緒に飛んでいくのが分かった。
お兄ちゃんが必死で追って来てたのも知らずに…――。


