百物語骨董店

「それはよかった。あのワンピースはもう4人ものオーナーの手に渡っている。要するに古着です。古着を着る前には以前のオーナーの念をリセットする為にも、お願いしたのです」

と店主は言った
そういうことか。約束事は守っていないが、たかが服に人の念がこもることなぞありえない
笑顔で店主の話を聞いているが、私は信じていない

「2つ目の約束事は大丈夫ですね?」

2つ目の約束

それは
―半日以上着用しないこと―

「必ず守ります」

私は歌うように答える

美しい店主さん
そんなことよりワルツを踊りましょう

フランス人形と手をつなぎ

くるみ割り人形と腕を組む

ほら もうすぐ焼けるよ木苺のパイが

かじると血のように真っ赤だよ

まるであなたの唇のよう

「長居させすぎたようですね」
店主の呼びかけに ふっ と我にかえった

窓の外を見ると薄暗くなっている
夢をみていたかのようだ
チリンチリン

重厚な木製の扉を押す

「くれぐれも約束事をお守り下さいますよう」

閉まる扉の奥で
美しい店主がつぶやいた