その言葉に、オダケンは「そうか」と呟き「申し訳ないが」と続けた。


「私はここからは出られません」


きっぱりとそう言い切った。
そう言ってうなだれ、握りしめた手を見つめる。


「理由はそれか?」


何が握られているか、なんとなく想像がついた。


「はい」


オダケンはそう言って、深々と頭を下げた。


「私はまだ見つけていないのです。だから、ここから出られません。一緒に行きたいのです。それには、見つかっていない部分を見つけてやらねばならんのです」


その声に反応するように林の奥から微かに鼻を鳴らし、寂しげに泣く犬の声が聞こえた。



「たつろうか……」



そう呟いた自分に、小さくオダケンは頷いた。


「見に行ってもいいか?」


尋ねる自分に、オダケンはどうぞというように自分たちに背を向け、林の奥へと歩き出す。

それにマリアを連れて付いていく。



オダケンに案内された場所にいたのは、やはり『たつろう』だった。


鼻の頭が茶色に禿げた老いた犬は、枯れ草の上で小さく丸くなっていた。



いや、丸くなっているというよりもそうならざるを得なかった。



そう。



『たつろう』は手足をなくした状態で、そこにいたのだ。