言いたいことはわかる。

だが、当然だろうなと思う。


「アイツは浄化はしていない。それに……あいつらはアスタロスの作った泥人形だからな」


カツーン、カツーンと。
ゆっくりこちらに向かってくる音を聞きながら、マリアに答えてやる。

マリアは自分から音のするほうへと視線を移した。

そこで見覚えのある顔にさらに顔が引き締まった。



「ネビ……ロス」


ガブリエルとは違った意味で軽そうな出で立ちをした男が一人こちらに向かって歩んできていた。
こざっぱりとした髪に、ナンパそうな薄い唇に笑みを浮かべていた。
真っ黒のレザー系の服装に身を包み、全身を鎖で飾り付けたその男ネビロスは軽く首をひねりながら「外れた」と言った。


「片翼ってナメてました。避けるぐらいはできるんだな」


自分たちの横を通り過ぎ、突き刺さった鎌を抜く。
その間に自分たちは態勢を整え、ネビロスに向き合った。


「ミカエル、『コイツ』は『アイツ』なの?」

コイツハアイツナノ?
ドイツのことだ?

と思わず言いそうになったが、くだらないことに時間も労力も使う気なし。


「コイツはアイツじゃない。まったくの別モノだ」


言い切った自分に向かって、ネビロスは鎌の刃をじっとりと紫色の舌で舐めまわして見せた後「モノ扱いは勘弁して」と笑った。


「片翼にそんな言われ方されると、むしゃくしゃが治まらなくなりそうだよ」

「下衆に片翼などと言われると、吐き気が止まらなくなりそうだ」



自分に言葉で勝とうなど思ってもらっては迷惑だ。