「ミア!」

 開けられたままのドアから一人の青年が部屋に飛び込んできた。灰色の瞳は、意志の強そうな光を灯している。


 ドクン


 鼓動が大きくなる。


「カイ・・・」

 ルイトのときと同じ。

 勝手に口から言葉が滑り落ちる。その響きに、意味はこめられていない。きっとこの人が『カイ』なのだ。心のどこかに残る記憶。


「大丈夫か?怪我はないのか?左手おかしくならなかったか?あ、お前なら自分で治すか・・・。」

 必死な様子でミアに駆け寄ってくる。

「左手・・・?」

 言われて、やっと昨日痛んでいた左手首のことを思い出す。

 今まで忘れていた分、痛みが一気に襲ってきた。

 カイは思わず顔をしかめたミアを見て横に立てひざを突いた。そうして椅子に座るミアと目線を合わせてから、仏頂面で手を出す。

 近くで見ると、髪の色は黒ではなく非常に濃い赤だった。強い光を当てれば、もっとはっきり赤だということがわかるだろう。


「見せてみろ。」


 有無を言わさぬ口調。

 ミアはおずおずと左手を出した。


「バカ!腫れてるじゃないか!なんで治さなかったんだ!」

「・・・そんなことできないよ。」

「はぁ?お前何言って・・・」