――ドクン


 心臓が大きく脈打った。


「ミア・・・?」


 男はすでに三日月が地平線の向こうへ姿を消し、星の輝きのみが残る天空を見つめた。

 少年と呼ぶか、青年と呼ぶか微妙な年頃。
髪は漆黒。瞳は灰色。
くっきりとつりあがった双眸は勝気な印象とともに強い意思も表している。


 今は影を落として漆黒にも見える瞳に、
その男は悲しみとも苦しみともつかぬ表情を浮かべた。


 妙な胸騒ぎがする。今すぐにでも彼女のもとへ向かいたい。
 だが・・・身体がいうことをきかない。

 服にはべっとりと赤い液体がついていた。
それが自分の血であることは疑うまでもない。
腹部にあてた手に感じる冷たさも、痛みも本物。

 太陽の力を使う彼が夜に使える力は昼間から格段に落ちる。
今も腹部に負った深手の治癒のため、すでにかなりの時間を割いていた。


「まったく・・・手加減なしで攻撃しやがって・・・。」


 ビルの路地裏。それほど大きな街ではないここでは、夜の人通りはほぼないといっていい。
それが男にとっては幸運だった。
人目を気にせずに力を使える。


 早く 早く


 逸る気持ちを抑えて、男は治癒に全力を注ぐ。とりあえず、これを治さねば動けない。


「痛っ・・・」


 傷の痛みに耐えながら一点のにごりもないサファイアの瞳を思い出す。

 気性の激しい彼女がこのままおとなしく終わらせるはずがない。後戻りできないことになる前に止めなくては。



 だから――