顔の横を風が切っていく。

 浮遊感はあったがさっきほど怖くはなかった。


「ごめんね・・・」

「え?」


 耳元でルイトがささやいた。

「・・・ごめんね。怖かった?」

「ううん、大丈夫。それよりルイト。」

「なあに?」

「ルナって、何?わたしはなぜ狙われたの・・・?」


 一瞬の沈黙。


 風の音がいやに耳についた。

「ルナって言うのは月の力を持つ人たちの中で一番強い人に与えられる称号だよ。つまりは君がルナってことになる。それで・・・」


 言葉がそこで途切れた。

 同時に風の音がやんだ。


「ついたよ。ここ、僕が借りてる部屋だから・・・多分、まだ誰にも知られてないはずだから安心していいよ。」

 おろされたのは、あるマンションのベランダだった。

 天を見上げると三日月は既に地平線の向こうに沈みきっていた。



「カイはどこに行ったんだろうね?あいつがミアを置き去りにすることなんて考えられないのに。」

「・・・。」


 どういうことだろう。
 やっぱりいまいち状況が飲み込めない。


「ごめんね。ほんとにごめんね、ミア・・・。僕には何もできないんだ。」


 ルイトはベランダの手すりに突っ伏して、そうつぶやいた。

「ルイト・・・?どうしたの?わたしは大丈夫だよ?」

「うん。わかってる。君は、いつだって強いから。」


 顔を上げずにルイトが言う。

 いたたまれなくなってミアは必死で呼びかける。


「わたしの世界にはまだルイトしかいないんだよ?だから・・・教えて。いろんなこと。悲しいことも、つらいことでもみんな聞くからさ。お願いだから一人で悲しまないで、ルイト・・・。」