愛しいキミへ






「…なっ…奈々っ…な…」


誰かの声に起こされてゆっくりと瞼を開く。
その動作すら今はだるく感じる。

「奈々っ!!」


今のはお母さんの声。

あれ?あたし、もしかして倒れた?
ヤバいって思ったのは覚えてる気がする。
だけど、その次から意識がなくなってた。

多分倒れたんだ、あたし。
暑かったしね。

一回閉じた瞼を気合いでまた開けた。




「奈々ぁ!!良かったわぁ」


目を開けた時、見えたのはアップのお母さんの顔。
中3の母とは思えない綺麗さをあたしは久々に実感した。

お母さんの隣にはお父さん。
私服なんて久々に見たよ?あたし。
だって家でもエプロンしてるし、お父さん。

お父さんの少し後ろの方にはお母さんの妹――つまりあたしの叔母さんが空を抱っこして立っていた。
空は姉が大変だって言うのにすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。
ちっちゃいよなぁ、赤ちゃんって。
今にも泣きそうな顔をしているお母さんを横目で見て、あたしもこんな頃があったんだなって思ってみる。

「奈々、どこか痛いところない?」

心配そうに聞いてくるお母さんに首を横に振った。
少しだけだるいけど、痛いところはない。
そもそも、熱中症みたいなので倒れたのに痛いところはないんじゃない?
自然と苦笑いになる。

ガラッ

急に開けられたドアに目を向けると隼人が立っていた。

「奈々さん!!起きたんですね?」

一瞬びっくりした後、すぐに笑顔の隼人。
前の様な陰りはもう感じられないから不思議。
隼人の事をたくさん知ったからかな?

「うん。ごめんね?迷惑かけたよね?」

その質問にはお父さんが答えてくれた。

「隼人くんが病院に連れてきて、お父さん達に知らせてくれたんだよ。しっかり感謝しなさい」

普段、あまり怒らないお父さんがちょっぴり怖そうに言っても全然効果はない。
妙にお父さんぶってるお父さんが可愛くて笑いながらうなずいた。

「隼人、ありがとね」

そう言うと隼人はつかつかとベットの脇まで歩いてきた。

「じゃあ、私達はロビーで手続きとかしてくるわね?」