愛しいキミへ


「おかえり!奈々!連れて来てくれた?」

年を感じさせない明るさで聞くのはあたしの母親。
この店、Bonheur、通商ボヌの店長。

ボヌはお母さんが建てた店でパティシエのお父さんとの夢が詰まった所。
ケーキや軽食をお父さんが作ってお母さんが接客。
そんな店は何気にこの街で人気になってる。

「うん!連れてきたよ。隼人って言うの。かっこいいでしょ?」

お母さんは忙しそうに辺りを走り回ってる。
今日はボヌが復帰する大事な日だもんね。

「あら!かっこいいわね。奈々の彼氏?」

ガシャーンと厨房の方でお皿の割れる音がしたけど気にしない事にする。

「違うよ。あたしの好きな人はもっとかっこいいもん」

またガシャーンという音が響いたけど気にしない。
ってかあたし隼人の目の前でそんな事…

「ごめんっ隼人も十分かっこいいよ…?」

恐る恐る顔をあげると爽やかに笑ってる隼人。

「好きな人いたんだ?まぁ分かるけど。それより手伝いでしょ?俺もどうせ暇だし」

「あり…」

「ありがとうね!隼人くん。今日だけお願い。
その代わり給料ははずむから!」

お母さんは横目で隼人を見ながら言った。
全く…人が折角言おうとしてるのになんで邪魔するかなぁ…
あたしもお母さんには逆らえないんだけど。

それからお母さんとあたしと隼人で開店準備をした。
まだ十時前。
開店パーティは十二時から、余裕で間に合うはず…だった。

「大変だ!母さん、卵が足りない!このままじゃメインが作れない!」

急にお父さんが厨房から飛び出してきた。
確か今回のメインはボヌと書かれたエッグタルト…来てくれたお客さん全員に配るはずだったはず。

急いで厨房に駆けつけるとメインはほとんどのは完成してるけど、後数個分の卵が足りないらしい。

「どうしようかしら?この時間ならまだ空いてないと他の店も空いてないし…」

コンビニはここから歩いて30分。
車はここから歩いて20分の家にある。

「しょうがないわ…奈々、隼人くん卵急いで買って来てくれる?買ってきて作ってたら開店しちゃうから、あたしとお父さんで出来る限りの所まで準備してるから」