愛しいキミへ




「何でダメなの…?
あたしは幸せにできるよ。
あたしだって好きな人と一緒にいるだけで幸せなんだよ?
好きなのはっ…」


胸板を叩きながら、言う。
けど、力はほとんど入れられない。
今はショックが大きすぎる。

もう会えないなんて嘘。

「俺だって、好きな奴は自分で幸せにしたいって思うよ?
だけど、いつか俺は幸せにしてやれなくなる。

悔しすぎておかしくなりそうだけどっ
俺には無理なんだよ」

彼の言葉は自分の言い聞かせてるようだった。

考えればあたしは彼の名前すら知らない。
ほんとに脆い関係。

でも、好きって気持ちなら誰にも負けないつもりなんだけど。

「やってもいないのに、分かんないじゃん!!
何でそんな諦めたように言うの…?

あたしは未来より今の幸せの方が大事だよ。
それじゃっダメなの…?」


涙がこれでもかというくらい流れる。
こんなに好きになった人いないのに。
諦めるなんて、忘れるなんてそんなの絶対にできない。

「お願いだからっもうここには来ないでくれ。
花屋は他にもある。

これ以上俺をどうにかさせないでくれよ」


何を言っても変わることのない決意。
そんなものを感じた。
感じたくなかったけど、彼の言葉一つひとつから伝わってきて嫌でも分かった。


さっきよりももっとギュッと抱きしめてから

「好きだから、忘れてくれな?
…奈々」


何も知らなかったはずなのに。
お互い、他人だったはずなのに。

どうして…どうしてあたしの名前を知ってるの?


「店員さん…名前は?」

「星斗」


「好きだよ、星斗。
忘れたいと思うまではあたしの勝手だからね」