『ねぇ、ソーダ水に
葡萄の粒を落としたら
どうなるか知ってる?』

『さぁな‥』

いつの日からだろう‥

私達の間に会話と言うものが
成立しなくなったのは‥

と言うよりも、二人の間に
流れる空気感が明らかに
変わってきている事に
随分前から気付いている。

嫌いになってしまった
わけじゃない。

ほんの少し情熱が
薄れただけ‥?


彼を愛していた‥


愛していた?


なぜ過去形にしてしまうの
だろう‥


こんなに傍に居るのに‥


恋愛にも季節があると言う。

私達は晩秋を迎えて
しまったのだろうか‥

後は凍てつく氷の刃の如く
互いを傷付けあうだけ
なのだろうか‥


解らない‥


そんな情熱さえ失せて
しまったのだろうか‥


翌日、彼女は出て行った。

バスルームに
彼女の香りの痕跡だけを
残して‥



いつもと同じ
せわしない時間が過ぎ

夕暮れ時、いつもと違う
ぽっかりと空虚な時間が
彼に訪れた‥


『ソーダ水の中の葡萄粒は
グラスの底へと沈んだら、
再び浮上して来るんだ‥
何度も何度でも‥』


彼女の居ない独りの部屋で、
彼はポツリと呟いた。