倒れ込むナナコを抱えながら、洋介は叫んだ。
「しんちゃん、誰かいる?ちょ、先生呼んで!」
ただならぬ声に、いちゃついていたしんちゃんとようこも慌てて廊下に飛び出た。
真っ青になり、洋介にかかえられているナナコをみるなり、ようこが「保健室!」と叫ぶ。
しんちゃんは、はっとしたように一瞬教室に戻り、ビニール袋をもってナナコのもとに駆けつけた。
「過呼吸じゃないのか?」
ビニールをあてられ、洋介に背負われ、ナナコは保健室に運ばれた。
途中、洋介が申し訳なさそうにしんちゃんに声をかけた。
「今日、ケンチャンこれる日だっけ?」
「いや、今日はバイトらしい」
「せいじは?」
「せいじさんは、委員会後じゃなかったっけ。」「…」
口を閉ざした洋介に、しんちゃんは困ったように笑いかけた。
「洋介さん、今日はやすもうよ。たまにはいいんじゃない?ライブ、まだ先だし。」
「…ほんと、すまん」
ひたすら、申し訳なさそうに歩く先輩の姿に、しんちゃんはますます苦笑した。
「なにいってるんですか。ようこ以外のファン一号、つれてきてくれただけでも感謝ですよ」
そして、洋介にかかえられているナナコの頭をくしゃっと触った。
しんちゃんの指にナナコの体温が伝わった。
ナナコをよしよしするしんちゃんをみながら、洋介はちいさくため息をついて言った。
「しかし、どうしたんだろ、こいつ。倒れたりするキャラじゃないんだけどな〜。」


保健室にナナコを寝かせると、しんちゃんとようこは早々にその場を立ち去った。
「とにかく、また明日。」
「女の子はデリケートだから。ナナコちゃん、体調悪い日だったのかもね、お大事にね。」
二人が去ったあと、ナナコはタイミングを見計らうかのように、ゆっくり目をあけた。
「あ、ナナコ。大丈夫か?お母さんに連絡して迎えにきてもらうから、そのまま寝てな。」
兄の言葉にうつろに頷く。
ナナコは、どうしようもなく深い傷口と、どうしようもなくあたたかい幸福感のふたつに同時に襲われ、どのみち、すぐ動きだせなかった。

ふれてもらえた。
しんちゃんの手、
おっきかった。

迷惑をかけてしまったこと、結局ようことでかけてしまったことは悔やまれるけど、なにより代え難い、ふれてもらえたという事実に、ナナコは胸がしめつけられる思いだった。