音がやむと、ドッと男の子たちがナナコに注目をした。
「洋介の妹?かわいーじゃん。」
「怯えてるよ~怯えなくていいのに、かわいいなー。」
同時に空気の中の湿度が急にナナコの体をおおったかのように、変な汗がにじみ出る。そんな妹の様子を兄・洋介は楽しそうに見ながら「かわいいだろ?俺の妹」とか言ってしまっている。
「洋介さん、かわいそうだよ。ナナコちゃん、緊張してるのに・・・」
ようこの一言でようやく、場の雰囲気がおさまった。ナナコは、ほっとしつつ、このようこという女の子に親近感をいだいた。
「もってきてくれた?」
ようやく本題にはいり、ナナコは抱えてきたエフェクターを洋介に手渡した。
「そうそう、アタリ。ありがとう。せいじ以外はじめてだよな?」
ナナコは無言で首を縦にふった。
「ドラムがケンチャン。●●大学1年。俺らの1個上。ギターはしんちゃん。俺の1個下。で、その子がしんちゃんの彼女でようこ。」
ナナコは一人ずつ頭をさげる。
「そして、こいつが俺の妹でナナコ。中3。俺より賢いけど、結構かわってて音楽きかねーし、家からでねーし、ケータイもたないし。でも、いいやつだからかわいがってやってな。」
珍しく兄らしいことを言う洋介の言葉に真っ赤になるナナコをみて、しんちゃんが声を上げて笑った。
「ちょっ!まじでかわいーなー!」
黒髪の下の華奢な顔立ちが、ふにゃっとゆがんだ瞬間をナナコは見逃さなかった。どきっとした。
間髪いれず、ようこがしんちゃんの頭をくしゃっとなでた。
「もう!しんちゃん、ナナコちゃんがかたまってるじゃない!」
その瞬間、ナナコはようこを羨ましいとおもった。

しんちゃんに、あの笑顔に、
わたしも触れたい。

「お兄ちゃん、もっとこのバンドの音ききたい。また練習きていい?」
音楽なんて全然わからない。でも、ナナコはしんちゃんに触れたい。その一心で、その言葉を発していた。
「どうしたんだ?まあ、いいよ。どうせ学校が隣同士なんだし。練習こればいいじゃん。」
そんなナナコの気持ちを知ってか知らずか、洋介の軽い一言から、ナナコの放課後はしんちゃん一色となってしまったのだ。