ギイッ
防音加工されたドアをあけると、エフェクターにつつまれたキレイな轟音がナナコをつつんだ。聞いたことがないメロディ。TVやラジオで流れる音楽とは全然違うと思った。
どこにいればいいのか分からぬまま、とりあえず、届け物を抱えてドアの前にたちつくしていると、肩を叩かれた。
色の白いきれいな子。
「ここ、すわりなよ。ナナコちゃん。」
すすめられるがまま、椅子にすわる。慣れない空間、慣れない音(でも、きらいじゃない)、慣れない人にナナコはただただ恐縮して固まってしまっていた。
椅子をすすめてくれた女の子が、また肩をたたいた。轟音にかきけされないように、耳元で叫ぶ。
「はじめまして、ようこです。高2です。洋介さんの妹さんだよね?」
ナナコも、この雰囲気に負けじと精一杯の笑顔でうなずいた。
「はじめまして、ナナコです。あの、これを・・・。」
兄に頼まれたエフェクターを差し出すと、また耳元で彼女が叫んだ。
「一区切りつくまで、多分つかわないから。バンドのみんなとあったことある?」
ナナコは首を横に振った。スタジオまではきたことがあるが、兄のバンド仲間にあうのは、実はこれが初めてだったのだ。
「あとで紹介してもらうといいよ。」
そういうと、彼女は熱心に音楽に聞き入り始めた。
ナナコはようこの視線を追うように、スタジオの中央に視線をなげかけた。
兄の弾くギターの横で、もうひとり、長髪の黒髪の男の子が熱心にギターを弾いていた。
(あ、そういうことかな。)
ようこのその男の子を見る真剣なまなざしに、ナナコはピンときた。
(つきあってるのか、片思いなのか・・・。)
ちょっと余裕がでたナナコがスタジオを見渡すと、兄とよく一緒にいる幼馴染のせいじさんがベースを、その奥では見知らぬ大学生くらいの男性がドラムを叩いていた。
浮遊感のある音の粒と轟音、そして、ようこが見つめる男の子から発せられる曖昧な歌声が、どことなく居心地の悪い空間を和らげて行く。
しかし、そんな時間も長くは続かなかった。