廊下で倒れてから一週間。
いつのまにか梅雨もあけ、照りつけるような太陽光がジリジリとコンクリートを焼く日々がはじまっていた。
夏休み目前ということもあり、学校内はわずかに浮き足立っていたが、中学3年生の階は、受験と卒業というビッグイベントにむけて他の学年とは違う雰囲気が漂っていた。
そんな中、受験も安泰とたかをくくって恋愛一筋だったナナコが、突然メイクをやめた。
「あれ、今日はメイクしないの?」
ミサが鏡を熱心に眺めながら、声をかけてきた。
「しない。」
「そーいえば、最近化粧ずっとしてないよね?」
鏡から視線だけナナコに送る。何かあるんじゃないの?といいたげだ。
「うーん、目標達成したし。」
机を片付けながら淡々と答えていたナナコの一言にミサが食いついた。
「え!まさか、つきあい始めたの?うばったの?」
「なわけないじゃん。だったら、なおさら化粧するもん。」
「ゴメン、全然意味わかんないんだけど?」
怪訝な顔をするミサに、ナナコはめんどくさげに告げた。
「だから個人的目標は達成したから、もういいんだって。」
「意味わかんないんだけど。なんなの、目標って。別れさせたとか?」
「ラブラブだよ、まだ。多分ね。」
「キスしてもらったとか?」
「なにそれ。全然違うし。」
キスか…。
ナナコは、あの日のしんちゃんとようこの声を思い出した。
きっと、二人はチューとかしてるんだろうな。
「全然わかんないや〜まぁ、話したくないならいいけどさ。」
すねたミサに、ナナコは苦笑いしながら言った。
「そのうち、教えるよ。でも、ミサはまた意味わかんないんだけどって言いそうだけどね。」