辺りは、真っ暗。

 上、下、右、左、前、後ろ……全て真っ暗闇。

 見渡す限りの、闇。

 そして、聞こえてくるのは、怒声混じりの叫び声。ずっと、クレアという名前を叫び続けている。

 でも、追われているのは、あたし。クレアなんて名前の女の人をあたしは全く知らないのに、追われているのは、あたし。

 あたしは怖くて逃げ続ける。向う先に地面があるかどうかなんてわからないけれど、あたしは逃げ続ける。

 どこまで来たのかはわからない。

 息が苦しくて、立ち止った。

 胸に手を当てて息を整えながら、耳を澄ました。叫び声に混じって、落ち着き払った低い声が響いているのに気が付いた。

 その声は、言う。

「逃げるのか。臆病者よ。ククク……流石は人間だ、タカが知れている」

 あたしは更に怖くなって、息が切れているのも忘れて再び走り出した。

 それでも、いくら走っても、あるのは――闇。闇。闇。

 もう、どうすることも出来なくなって。その場で、膝を折ってあたしはうずくまった。

「もう……もう、嫌ーーーー!」

 あたしが叫んだときだった。

 赤い線が一本、伸びているのに気が付いた。

 よく見れば、それは赤い糸だった。そしてそれは、あたしの左手の小指から伸びていた。

 直後、辺りは一転して目がくらむ程に眩い光に包まれた――。