(あ。やばい)

 先生の雰囲気の変化を敏感に感じ取った誠一がサッと机の下に避難する。

「てめぇ…いー度胸だなぁ?課題をサボろうっつうのかぁ?あ゛?」

「滅相もゴザイマセン。ただ、今すぐに旅に出なさいと神様からお告げがあったのデス」

(あの馬鹿…)

 誠一が呆れ果てて頭痛を感じた時―――教師の怒りが爆発した。

「市井ー!!今すぐ席に戻れー!!ぶっ殺すぞ、あ゛?!」

 その発言は教師としてどーなの?という感じだが、あえて誠一は突っ込まない。

 理由はもちろん、殺されたくないから。

 机の上ではチョークやらシャーペンやら消しゴムやらが、どんどん前から後ろへと飛んでいく。

 その先生の鋭い飛び道具を武人は軽々と避けていく。

 運動神経が無駄に良い奴だ。

「ちょこまかするな市井ーーー!!」

「だって当たったら痛いじゃん」

(それはもっともだが、これ以上先生を怒らせないでくれぇ…)

 誠一の切なる願いも空しく、武人は飛び道具を全てかわしきった。

 手当たり次第投げていた女教師も武器が無くなると、荒い呼吸を繰り返しながら冷静さを取り戻そうとする。

「ちっ」

 女教師は忌々しそうに舌打ちをし、課題を増やして去っていった。なぜか誠一の分も増えている。

「…なんで俺まで増えてんだよ」

「まぁまぁ。旅は道連れ世は情け♪」

「お前は少しは反省しろ」

 武人の態度に怒りを通り越して呆れ果てる誠一。





 そんな二人のやりとりを、遠くから耳を済ませて聞いている少女が一人いた事に、二人は気づくはずもなかった。