「はぁ?なんだよっ、それ!」

「だから、二人きりのほうがいいでしょ?あんた、本当は恥ずかしがりなんだから。あ、間違ったことだけはしないでよね」

「間違ったことってなに?」

少し、強い口調で問いただす俺に対し、母さんは話をごまかした。


「……っ電車、遅れちゃうっ。じゃあ、智也。トーコちゃんとは清いお付き合いをしてね」


「だからっ!……あいつとはそんなんじゃねぇって!」


母さんは俺の言葉も聞かず、待ち合わせの時間に遅れそうで、慌てて家を飛び出して行った。


呆れながらも俺は、閉まったばかりの玄関の扉を見つめる。


「トーコは来ねぇよ」

呟く。


呟いて、吐き出して、心の何処かでほんの少しの期待を抱いている俺自身に喝を入れる。


「来ねぇよ、来ねぇっ。だから、このご馳走もケーキも俺のもの!」


ソファーに勢いよく座ると、目の前の料理に手を伸ばした。